エジプトを解読する

古代エジプト人が「来世の家」と考えた墓からは多くの副葬品が出土しています。豪華なミイラ棺、来世の安寧を手助けするための、いわゆる「死者の書」と呼ばれる葬祭文書に記された象形文字、呪術的な意味を込めて作られた宝飾品や身代わりの人形「シャブティ」などを通じ、エジプトの古代文明を読み解きます。

古代エジプト人は永遠の生を信じていましたが、死後に来世へと赴く旅は危険で、有毒の邪悪な存在に満ちていると考えられていました。 そこでエジプト人たちは安全に進むため、多くの予防策を講じたのです。死者には呪文や護符が与えられ、永遠の生をいったん獲得すると、墓の副葬品や供物が死者を養うために必要とされました。

「ネスナクトの『死者の書』(部分)」 グレコ・ローマン時代(縦30cm、横45cm)
「ネスナクトの『死者の書』(部分)」
グレコ・ローマン時代(縦30cm、横45cm)

死者の書

「死者の書」とは、第2中間期の末頃に現れた葬祭文書の総称で、古代のエジプトでは「日中に出現するための呪文」と呼ばれていました。全体はおよそ200の呪文からなり、死者が永遠の生を来世で獲得するために必要な内容を含みます。
有名な第125章は、死者の心臓と真実の女神マアトの羽を秤で比べ、死者が生前に正しい行いをしたかを判断するものでした。そうした文書はパピルスや護符に記され、棺やミイラの包帯の間に置かれました。

「ネスナクトの『死者の書』」 グレコ・ローマン時代(縦29.8cm、横48.3cm)
「ネスナクトの『死者の書』」
グレコ・ローマン時代(縦29.8cm、横48.3cm)

来世への準備、埋葬習慣

「供物卓」 中王国時代(高さ6cm、幅49cm、奥行50cm)
「供物卓」
中王国時代(高さ6cm、幅49cm、奥行50cm)

来世で永遠に生きるためには、死者に食物と飲料を提供する必要がありました。
そのため、墓には多くの食料だけでなくその図像や供物を求める呪文も記され、供物を置く卓が、「供物」を表すヒエログリフの形状を呈することもありました。


古代エジプトでは、死後の世界は現世と同様と信じられていたため、死後の世界で使うための日用品も埋葬されました。

「双把手付多色ガラス壺」 新王国時代(高さ12cm、幅8.5cm、径8cm)
「双把手付多色ガラス壺」
新王国時代(高さ12cm、幅8.5cm、径8cm)
「楕円形のバスケット」 新王国時代(高さ14.7cm、幅21cm、奥行10cm)
「楕円形のバスケット」
新王国時代(高さ14.7cm、幅21cm、奥行10cm)
「船の模型」 中王国時代(高さ47cm、幅17cm、奥行87cm)
「船の模型」
中王国時代(高さ47cm、幅17cm、奥行87cm)

大型の模型は、来世で死者に呪術的に役立つものとなりました。船の模型は来世での移動手段を提供すると考えられていました。


古代エジプト人は色とりどりの護符や宝飾品を用いることで、ミイラが呪術的に保護されると信じていました。

「ジェド柱の護符」 年代不詳(高さ3.1cm、幅1.1cm、厚さ0.6cm)
「ジェド柱の護符」
年代不詳(高さ3.1cm、幅1.1cm、厚さ0.6cm)
「護符とビーズの首飾り」 新王国時代(長さ36cm)
「護符とビーズの首飾り」
新王国時代(長さ36cm)

シャブティと呼ばれる人形は、来世で死者の労働を代行させるために副葬されました。人形には労働のための呪文が記され、時には1年分365体のシャブティが死者とともに埋葬されることもありました。

「ホルウジャのシャブティ」 後期王朝時代(高さ27.5cm、幅7.2cm、奥行4.5cm)
「ホルウジャのシャブティ」
後期王朝時代(高さ27.5cm、幅7.2cm、奥行4.5cm)
「メリトアメンのシャブティ」 第3中間期(高さ12.9cm、幅3.8cm、奥行3.8cm)
「メリトアメンのシャブティ」
第3中間期(高さ12.9cm、幅3.8cm、奥行3.8cm)

ミイラの制作について

来世での生活に備え、肉体はミイラにされねばなりませんでした。完全に保存された肉体のみが、永遠の生を得ることができたのです。
防腐処理を担当する神官は遺体を洗って臓器を取り除き、それらを「カノポス壺」と呼ばれる容器に納めました。ついで彼らは約40日の間に4回ナトロン(塩の一種)で遺体を乾燥させ、再び洗い、それから樹脂と油で覆って亜麻布で巻きました。布の間には死者を保護する護符が置かれることもあり、制作時には呪文や祈りの文句が唱えられました。

ミイラ制作で使用された遺物

「ミイラ作りの道具」 後期王朝時代(高さ0.4cm、幅0.9cm、長さ27.8cm)
「ミイラ作りの道具」
後期王朝時代(高さ0.4cm、幅0.9cm、長さ27.8cm)
「石製ナイフ」 新王国時代もしくは後期王朝時代 (厚さ0.7cm、長さ11.1cm、幅4.6cm)
「石製ナイフ」
新王国時代もしくは後期王朝時代 (厚さ0.7cm、長さ11.1cm、幅4.6cm)
「ミイラの包帯」 グレコ・ローマン時代(幅2.5cm、長さ250cm)
「ミイラの包帯」
グレコ・ローマン時代(幅2.5cm、長さ250cm)
「樹脂」 前500 - 後300年
「樹脂」
前500 - 後300年
「死者の内臓を納めた木箱」 後期王朝時代(高さ61.5cm、幅19.5cm、奥行22.5cm)
「死者の内臓を納めた木箱」
後期王朝時代(高さ61.5cm、幅19.5cm、奥行22.5cm)
「金彩のミイラマスク」 グレコ・ローマン時代(長さ48.5cm、幅28cm、厚さ14cm)
「金彩のミイラマスク」
グレコ・ローマン時代(長さ48.5cm、幅28cm、厚さ14cm)
「ハレレムのミイラ」 後期王朝時代(長さ170cm、幅39cm、高さ25.5cm)
「ハレレムのミイラ」
後期王朝時代(長さ170cm、幅39cm、高さ25.5cm)

棺は、物理的かつ呪術的に死者を保護するために制作されました。第3中間期以降は、墓の壁画に施されていた図像や呪文が棺やパピルス、碑などに表されるようになり、「死者の書」の一場面が描かれたり、女神ヌウトが描かれるなど、棺の装飾は多様さを増しました。
また、棺が複数の入れ子になるなど、さまざまなタイプが制作されました。

「ネヘムスウのカルトナージュ棺」 第3中間期(長さ150cm、幅40cm、高さ31cm)
「ネヘムスウのカルトナージュ棺」
第3中間期(長さ150cm、幅40cm、高さ31cm)
「アメンヘテプのミイラ覆い」 第3中間期(長さ174cm、幅44cm、高さ14cm)
「アメンヘテプのミイラ覆い」
第3中間期(長さ174cm、幅44cm、高さ14cm)
「アメンヘテプの内棺」 第3中間期([蓋]:長さ185cm、幅50cm、高さ35cm / [身]:長さ185cm、幅50cm、高さ34cm)
「アメンヘテプの内棺」
第3中間期([蓋]:長さ185cm、幅50cm、高さ35cm / [身]:長さ185cm、幅50cm、高さ34cm)