古代エジプト文明のさまざまな側面を解き明かす研究の最前線を、最新の科学技術を用いた調査や各種の研究プロジェクトを通して紹介します。本展のために最新の装置を用いてCTスキャンを行った、人のミイラ3体と動物のミイラ1体の研究成果を世界初公開し、初めて明らかになったその内容について検証します。
また、木棺の制作技術や彩色の技法、そこに記された書体の分析から、制作に携わった工房や個人を特定する試み、ミイラ制作時に取り出した内臓を納めたカノポス壺の分析、青銅製品の制作技法に関する新たな発見など、ライデン国立古代博物館が進める各種の国際的なプロジェクトを実際の遺物や豊富な画像を用いて展示します。
CTスキャンの結果、本展で紹介する人のミイラ3体には当初の予想を超えた興味深い発見がありました。性別や死亡時の推定年齢といった事柄に加え、ミイラに巻かれていた護符や、正体不明の土製と思われる物体の存在が明らかになったのです。 神々と関係が深い動物もミイラとして捧げられましたが、そのうちの一つは、エジプトでは珍しいコブラであった可能性が高く、その成果を世界初公開します。
カノポス壺プロジェクト
カノポス壺とは、ミイラを制作する際に人体から取り出した、胃・腸・肺・肝臓の4つの臓器を納めた容器を指します。
スイス・カノポス壺プロジェクトでは壺の機能や図像、内容物に焦点を合わせ、マクロスコープやX線分析による内蔵や病理学的組織の同定が可能となるほか、内容物の保存状態を評価し、防腐処置時に使用された成分も同定します。
木棺の研究
1891年に、テーベ西岸のハトシェプスト女王葬祭殿第一中庭下から、第21王朝の神官の人形棺153点が発見され、エジプト政府はオランダ、フランス、ヴァチカン市国を含む17カ国にこれらの棺のいくつかを贈呈しました。棺は彩色の素晴らしさで知られますが、多くは塗料が剥落し、彩色が褪せるなど状態が良くありません。
国際的なヴァチカン木棺プロジェクトでは、ヴァチカン美術館、ルーヴル美術館、ライデン国立古代博物館などが協力し、専門知識を結集して最新技術を用い、それらの棺を研究・修復しています。例えば塗料層と顔料の分析は、石材の壁に下地として用いた塗装の技法をどのように棺に用いたのかなど、古代の職人の技術に新たな知見を与えてくれます。
エジプトの象形文字
古代エジプト文明ではヒエログリフ(神聖文字)、ヒエラティック(神官文字)、デモティック(民衆文字)の3種の文字が使用されました。そのうち墓や神殿などの建造物にも後代に多く用いられたヒエログリフはおそらく前3300年頃に登場し、エジプトの王朝時代全般を通じて使用されたほか、エジプトがクレオパトラの死後ローマの属領となってからも約400年の間生き残りました。 文字は表音や表意の要素を含み、外国人の名前などには音のみをあてて用いられることがありました。
本展では、碑や壺、彫像、パピルスなど多くの遺物に記された文字を間近に見ることができるほか、パピルスに記す際などに用いられた筆記用の筆やパレットなども展示します。
「パセルの神話パピルス(部分)」
第3中間期(縦39cm、横125cm)
「第19王朝の魔術/医術パピルス(部分)」
新王国時代(縦18cm、横63cm)
エジプト人は、葦のペンに黒や赤の顔料をつけ、パピルスや、オストラカと呼ばれる土器片などに文字を記しました。黒には煤、赤には土が使われ、ペン先は切った後、ブラシ状につぶして用いられました。
テキストは通常、匿名で記されたため、現在、手書き文字の筆跡から、筆記者を特定する研究プロジェクトが進められています。